貨幣の流通

貨幣の仕組み

はじめに

貨幣はどこから来てどこへ行くのでしょうか。当記事では貨幣の流通について簡単に整理してみたいと思います。以下は貨幣の流れのアウトラインです。それぞれのステップについて少し詳細に説明します。

貨幣の流れのアウトライン
  • Step 1
    国債の買取

    日本銀行は、政府が国債を発行する直前に既発国債を買い取ります。

  • Step 2
    国債の発行

    政府は、財政支出の資金を調達するために国債を発行します。

  • Step 3
    国債の売却

    政府は、発行した国債を民間銀行等に売却します。

  • Step 4
    財政支出

    政府は、国債を売却して調達した資金で財政支出をします。

  • Step 5
    国債の買取

    民間銀行は、余剰な日銀当座預金で国債を買い取ります。

  • Step 6
    貨幣の流通

    預金通貨又は現金通貨が世の中に流通します。

  • Step 7
    国債の買取

    日本銀行は、政府が徴税をする直前に既発国債を買い取ります。

  • Step 8
    徴税

    政府は、世の中に供給された貨幣を回収するために徴税をします。

  • Step 9
    国債の償還

    政府は、徴税で得た政府預金で償還日が来た国債を償還します。

以下の説明では、政府が1億円の財政支出を行う場合を考え、政府、日本銀行、民間銀行及び企業・家計のそれぞれの経済主体の資産及び負債を追っていきます。

初期状態

図1

図1は、ある時点の政府、日本銀行、民間銀行、家計・企業のそれぞれの経済主体の資産及び負債を示しています。この状態を「初期状態」とします。

単位は全て[億円]とします。ここでは、民間銀行の資産の一部である国債(1億円)と、それに対応する政府の負債の一部である国債(1億円)のみを示しています。他の資産及び負債は、以下の説明で最後まで変動しないので、ここでは省略することにします。また、民間銀行及び企業・家計は、世の中のすべてのそれぞれを一まとめにしています。

Step 1: 国債の買取

Step 1で、日本銀行は、発行予定の国債と同額分の既発国債を金融市場で買い取ります。図2は、日本銀行が、民間銀行から1億円分の既発国債を買い取った後の状態を示しています。

図2

このようにして、1億円の日銀当座預金が金融市場に供給されます。

他の記事で述べたように、民間銀行等が金融市場において国債の売買を行う際には、日銀当座預金を決済手段として用います。後のStep 3で民間銀行が国債を購入すると、日銀当座預金の残高総額が減少することにより政策金利に上昇圧力が生じます。この上昇圧力を打ち消すために、Step 1で日銀当座預金の残高総額を増加させておきます。

Step 2: 国債の発行

Step 2で、政府は、1億円分の国債を発行します。図3は、政府が1億円分の国債を発行し、売却する前の状態を示しています。

図3

ここで注意すべきことは、財政支出の資金は税金ではないことです(詳細はこちら)。仮に財政支出の資金が税金だったと考えてみましょう。人々が納税したそのお金はどこから来たのでしょうか。それは主に、納税者の勤務先から支払われた給料が考えられます。

それでは、その勤務先から支払われた給料はどこから来たのでしょうか。その勤務先のお客さんが支払った対価かも知れません。

それでは、その勤務先のお客さんが支払った対価はどこから来たのでしょうか。そのお客さんの勤務先のお客さんが支払った対価かも知れません。

それでは、そのお客さんの勤務先のお客さんが支払った対価はどこから来たのでしょうか。

・・・これ以上考えても答えが出そうにありません。

つまり、貨幣は発行されて支出されなければ世の中に現れません。貨幣を発行できる主体は日本銀行です。そして、最初に貨幣を支出できる主体は政府です。

Step 3: 国債の売却

Step 3で、政府は、発行した国債を民間銀行等に売却します。図4は、政府が1億円分の国債を民間銀行に売却した後の状態を示しています。

図4

このときの決済は日銀当座預金を介して行われます。日本銀行は、民間銀行の日銀当座預金の残高を1億円だけ減らすとともに、政府預金の残高を1億円だけ増やします。これによって、政府は財政支出のための資金を調達することができました。

ここまでで注意すべきことは、政府は国債を発行しただけということです。また、日本銀行は日銀当座預金や政府預金の残高を、キーボードを叩いて増減させただけということです。

ですので、政府は財政支出の資金を調達するために、例えば公務員を金鉱山に派遣して金を採掘させる等の膨大な労力を要しません。当たり前ですが。

Step 4: 財政支出

Step 4で、政府は、調達した政府預金を使って財政支出をします。図5は、Step 3で政府が調達した1億円を使って財政支出をした状態を示しています。

図5

ここでは、政府が企業Aに1億円の公共事業を発注した場合を考えましょう。政府が企業Aに1億円の対価を支払う際、政府は1億円分の政府小切手を企業Aに差し出します。

政府小切手を受け取った企業Aは、日本銀行又はその代理店にその政府小切手を持ち込みます。すると、日本銀行は、政府預金から企業Aの取引銀行(「銀行B」としましょう)の日銀当座預金へ1億円を移します。図5(上)は、この状態を示しています。

このとき、日本銀行は、キーボードを叩いて銀行Bの日銀当座預金の残高を1億円だけ増やし、政府預金を1億円だけ減らします。

次いで、銀行Bは、企業Aの預金を1億円だけ増やします。図5(下)は、この状態を示しています。

このとき、銀行Bは、キーボードを叩いて企業Aの預金を1億円だけ増やします。これで、政府と企業Aとの決済が完了します。

なお、銀行預金は企業Aにとっては資産であり、銀行Bにとっては負債です。そのため、銀行Bには1億円の負債が発生します。

ここまでをまとめます。政府が財政支出をすると、それと同額(この例では1億円)だけ企業・家計の銀行預金が増えることになります。

Step 5: 国債の買取

この例では仮に、預金準備率が10%であるとしましょう(預金準備制度の詳細は信用創造の記事)。この場合、銀行Bは、企業Aからの現金通貨の引き出しの依頼に備えて、増加した1億円の銀行預金に対して1,000万円の日銀当座預金を保有する必要があります。つまり、銀行Bは、増加した1億円の日銀当座預金のうち、9,000万円は過剰です。

また、日銀当座預金には利息が付きません。したがいまして、銀行Bには過剰な9,000万円を運用したいという動機が働きます。銀行Bは、9,000万円で国債等の有価証券を購入することができます。

あるいは、銀行Bは、9,000万円を準備預金として9億円を限度に更に貸し出しをすることができます。いわゆる「信用創造」です。

ここでは、銀行Bは9,000万円分の国債を購入することとして説明します。

図6は、民間銀行(銀行B)が9,000万円分の国債を購入した状態を示しています。

図6

Step 6: 貨幣の流通

上述のように、政府が財政支出をすると、それと同額だけ企業・家計の銀行預金が増えます(この例では1億円)。企業・家計は、保有する銀行預金と交換する形で現金通貨を引き出すことができます。あるいは、保有する銀行預金を様々な決済に用いることができます。

つまり、銀行預金が創造されると、預金通貨又は現金通貨という形で世の中に貨幣が流通するようになります。

この例で対価を受け取った企業Aは、増加した1億円の銀行預金で設備投資をしたり、従業員の給料を支払ったりします。その従業員は、銀行預金として支払われた給料を引き出して現金通貨に替え、生活や娯楽のために支出することができます。

図7は、企業・家計が民間銀行の預金から1,000万円を引き出した状態を示しています。

図7

まず、民間銀行は、日銀当座預金から現金1,000万円を引き出します(図7(上))。次いで、民間銀行は、企業・家計の銀行預金を1,000万円だけ減らし、企業・家計からの現金通貨の引き出し要求に応じます(図7(下))。これによって、現金通貨が世の中で流通するようになります。

一方、企業・家計が現金通貨を民間企業に預け入れると、逆の流れが起こり、図6に戻ります。このようにして、現金通貨は日本銀行に還流し、単なる「印刷物」に戻ります。

Step 7: 国債の買取

日本銀行は、政府が徴税をする直前に、見込まれる税収に応じた額の既発国債を金融市場で買い取ります。この例では、2,000万円の税収が見込まれるとしましょう。また、図6の状態を基準として考えましょう。

図8は、日本銀行が、民間銀行から1,000万円分の既発国債を買い取った後の状態を示しています。

図8

このようにして、1,000万円の日銀当座預金が金融市場に供給されます。これによって、図1の初期状態に対して民間銀行の日銀当座預金が2,000万円だけ増えました。

納税者が納税を行う際には、最終的には日銀当座預金を政府との決済手段として用います。後のStep 8で民間銀行の日銀当座預金が納税額分だけ政府預金に移動すると、日銀当座預金の残高総額が減少して政策金利に上昇圧力が生じます。上記のように日本銀行が日銀当座預金を供給することにより、その上昇圧力を打ち消します。

Step 8: 徴税

Step 8で、政府は徴税をします。財政支出によって世の中に貨幣を供給する一方では、物価が上がり続ける一方になってしまいます。これを避けるために、政府は徴税によって世の中に供給された貨幣を回収します。(詳細はこちら)。ですので、前述したように政府が徴税する本来の理由は財政支出の資金(財源)を確保するためではありません。

徴税も、日銀当座預金を介して行われます。例えば、納税者は、税金の支払依頼書を民間銀行やコンビニに持ち込み、民間銀行に自身の預金口座から引き落として納税するよう依頼をします。そうすると、民間銀行は、まず納税者の銀行預金を納税額だけ減らします。

図9は、政府が2,000万円を徴税した状態を示しています。

図9

まず、納税者と民間銀行間の決済です。民間銀行は、企業・家計の銀行預金の残高を2,000万円だけ減らします(図9(上))。これで、納税者と民間銀行間の決済が終了します。

次は、民間銀行と政府間の決済です。民間銀行は、日本銀行に対し、納税額の2,000万円だけ日銀当座預金から政府預金に移すよう依頼し、日本銀行はこれに応じます(図9(下))。これで、民間銀行と政府間の決済が終了します。

これによって民間銀行と政府間の決済が終了し、徴税が完了します。そして、徴税額の分だけ政府預金の残高が増えるとともに、企業・家計の銀行預金が減ります。

Step 9: 国債の償還

Step 9で、政府は、償還日が到来した国債を、政府預金で償還します。図11は政府が国債を償還した状態を示しています。

図10

この例では、日本銀行が保有する2,000万円分の既発国債の償還日が到来し、政府が保有する2,000万円分の政府預金で償還した場合を示しています。

ここで示したように、政府が徴税によって得た政府預金(税収)は、既発国債と相殺されてこの世から消えてしまいます。

このことから、重要な結論が導かれます。それは、税は財政支出のための資金(財源)ではないということです。少なくとも、財政支出は税収を前提としていません。

まとめ

貨幣の流れ、つまり、貨幣はどこから来て、世の中を流通した後にどこへ行くのかについて説明しました。以下、重要なポイントをまとめます。

  • 貨幣は、政府による財政支出によって発生し、徴税によって消滅します。
  • 財政支出の額だけ企業・家計の銀行預金は増加します。また、納税額だけ企業・家計の銀行預金は減少します。
  • 税は財政支出のための資金(財源)ではありません。少なくとも、財政支出は税収を前提としていません。

***

「貨幣の仕組み」に戻る

コメント

タイトルとURLをコピーしました