はじめに
「貨幣」の定義について考えましょう。
「貨幣」とは、もちろん日常的に用いている「お金」にほぼ相当するものですが、辞典や辞書によって定義は微妙に異なります。ですので、「貨幣」を明確に定義することはちょっと難しそうです。
当記事では、いくつかの「貨幣」の定義を示して比較します。そして、当記事で当面用いることにする「貨幣」の定義を最後にまとめます。
辞典による定義
ここでは、広辞苑、新明解国語辞典及び大辞林といった代表的な辞典による定義を比較してみます。
広辞苑による定義
まず、広辞苑による「貨幣」の定義を見てみましょう。
「貨幣」の定義
広辞苑(第六版)では、以下のように「貨幣」を定義しています。
か‐へい【貨幣】
(貨・幣ともに「たから」の意)
①商品交換の媒介物で、価値尺度・流通手段・価値貯蔵手段の三つの機能を持つもの。本来はそれ自身が交換されるものと等価な商品で、昔は貝殻・獣皮・宝石・布・農産物など、のち貨幣商品として最も適した金・銀のような貴金属が漸次用いられるようになった。
②広義には、本位貨幣のほか、法律によって強制通用力を認められた信用貨幣および預金通貨をも含めていう。→通貨。
引用元:広辞苑(第六版)
①では、機能の面から貨幣が定義されています。
①の後半部では貨幣の具体例が記載されているものの、現代日本では、貝殻・獣皮・宝石・布・農産物などはもちろん、金・銀のような貴金属も商品交換の媒介物としては用いられていません。
②を見てみましょう。
広義には、本位貨幣のほか、
- 法律によって強制通用力を認められた信用貨幣
- 預金通貨
が含まれるようです。
少々聞きなれない単語が出てきました。特に、「本位貨幣」、「強制通用力」、「信用貨幣」とは何でしょうか。また、「預金通貨」とは正確には何を意味するのでしょうか。広辞苑等で、それぞれの定義を見てみましょう。
「本位貨幣」の定義
「本位貨幣」については後の記事で詳細に考察したいと思いますが、上述の貨幣の定義②によると、これが「狭義の貨幣」ということでしょうか。広辞苑(第六版)では、「本位貨幣」を以下のように定義しています。
ほんい‐かへい【本位貨幣】
(standard money)一国の貨幣制度の基礎をなす貨幣。法貨のうちで中心的な地位を占め、無制限の強制通用力を持つ。金本位制度の下では金貨が本位貨幣。
引用元:広辞苑(第六版)
現在の日本では、金本位制度も銀本位制度も採用していません。それでは日本の場合、「本位貨幣」とは何でしょうか。といったことはここでは置いておいて、本位貨幣については後の記事で考察したいと思います。
「法律によって強制通用力が認められた」の定義
まずは「強制通用力」の定義を明確にしましょう。広辞苑(第六版)では、以下のように「強制通用力」を定義しています。
きょうせい‐つうようりょく【強制通用力】
法律上規定された最終的支払手段としての効力。日本では支払手段として日本銀行券や政府発行の補助貨幣を用いると、受取人はそれを断ることはできない。ただし、補助貨幣には金額の制限がある。→制限法貨→無制限法貨。
引用元:広辞苑(第六版)
なお、「法律」とは日本では日本銀行法を指し、「強制通用力」については同法第46条第2項に定められているものと思われます。
(日本銀行券の発行)
第四十六条 日本銀行は、銀行券を発行する。
2 前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する。
日本銀行法
「信用貨幣」の定義
さて、次に「信用貨幣」についてはどうでしょうか。やはり広辞苑(第六版)の定義を見てみましょう。
しんよう‐かへい【信用貨幣】
貨幣代用物として流通する、本来の貨幣の支払約束を表す債務証書。一般に信用に基づいて発行された証券が、当事者以外の者に貨幣代用物として広く受容されるに至ったもの。広義には、額面価格が素材価値より高い通貨。本位貨幣以外の通貨すなわち補助貨幣・銀行券・政府紙幣および小切手・手形など。→名目貨幣。
引用元:広辞苑(第六版)
信用貨幣とは、「債務証書」のようです。「債務証書」とはいっても、いろいろな債務証書があります。
しかし、広辞苑による貨幣の定義によると、貨幣としての信用貨幣(債務証書)は、法律によって強制通用力が認められていなくてはなりません。
「信用貨幣」の定義の後半部分、つまり広義の信用貨幣を見てみましょう。この定義によると、広義の信用貨幣には、次の3つが含まれそうです。
ここで、「通貨」という単語が出てきました。広辞苑では、以下のように「通貨」を定義しています。
つう‐か【通貨】
①強制通用力を有する貨幣の意で、狭義には流通貨幣を意味する現金通貨。すなわち、本位貨幣・紙幣・銀行券・補助貨幣の総称。法貨。
②広義には、預金通貨をも含める。現金通貨は賃金支払や消費支出など日常の小口取引に、預金通貨は主に企業間の取引の決済に使われる。
引用元:広辞苑(第六版)
つまり、「通貨」であれば強制通用力が認められているといえそうです。貨幣としての信用貨幣は、広辞苑による定義では強制通用力が認められていますので、3の小切手・手形は排除され、
- 額面価格が素材価値より高い通貨
- 本位貨幣以外の通貨すなわち補助貨幣・銀行券・政府紙幣
が含まれそうです。
ここで、1は2に含まれるのではないでしょうか。
つまり、補助貨幣(硬貨)は、例えば500円玉それ自体は500円の価値はありません。また、銀行券は「日本銀行券」を指すと思われますが、例えば10000円札それ自体は1枚あたり17円程度で製造されると言われています。なお、政府紙幣については、現在の日本では発行されていません。
まとめますと、広辞苑の定義によると、現在の日本では「貨幣としての信用貨幣」は、補助貨幣(硬貨)と銀行券(以下、「現金紙幣」)と言えそうです。
「預金通貨」の定義
もう一つ、貨幣の定義②の広義の貨幣に含まれる「預金通貨」の定義も確認しておきましょう。
よきん‐つうか【預金通貨】
現金に換えなくても、小切手や振替制度を利用することで、それ自体が決済手段となる預金。当座預金・普通預金など。↔現金通貨。
広辞苑(第六版)
これについては、「預金通貨」の直感的なイメージとほぼ一致しているのではないでしょうか。ただ、「当座預金」とは、日本銀行の当座預金と、市中銀行の当座預金がありますが、広辞苑では区別されていないようです。
広辞苑による定義まとめ
広辞苑の定義によると、貨幣とは次の3つの機能を有します。
- 価値尺度
- 流通手段
- 価値貯蔵手段
そして、広辞苑では次の3つを貨幣として挙げています。
- 本位貨幣
- 信用貨幣(現金紙幣)
- 預金貨幣(当座預金・普通預金など)
新明解国語辞典による定義
新明解国語辞典による「貨幣」の定義も簡単に見てみましょう。
かへい【貨幣】
もと交換のなかだちとして案出されたもので、支払いの手段・価格の標準として、政府・中央銀行が一定の形や模様に作って発行した、金属片または紙幣。お金。
[かぞえ方]一枚
引用元:新明解国語辞典 (第5版)
新明解国語辞典による定義の「交換のなかだち」とは、広辞苑の定義①の「商品交換の媒介物」に対応すると思われます。
しかしながら、広辞苑の定義①のうち、「価値尺度・流通手段・価値貯蔵手段」にそれぞれ相当するものについては記載がありません(もしかしたら、「価格の標準」とは「価値尺度」のこと?)。
更に、新明解国語辞典による定義では、貨幣は一枚、二枚・・と数えられる「金属片または紙幣」といった物体のようです。つまり、「預金通貨」は貨幣の範囲外となりますね。預金通貨は、実体のあるものではなく、「情報」ですから。
大辞林による定義
次いで、大辞林による「貨幣」の定義も簡単に見てみましょう。
か-へい【貨幣】
商品の交換価値を表し,商品を交換する際に媒介物として用いられ,同時に価値貯蔵の手段ともなるもの。歴史的には貝殻・布などの実物貨幣にはじまり,金銀が本位貨幣とされるようになり,現代では鋳貨・紙幣・銀行券が用いられている。
引用元:大辞林 (三省堂·スーパー大辭林)
ここでの「媒介物」、「価値貯蔵の手段」及び「商品の交換価値」はそれぞれ、広辞苑の「商品交換の媒介物」、「価値尺度」及び「価値貯蔵手段」に相当すると思われます。機能の定義については、広辞苑によるものとほぼ対応すると思われます。
貨幣の具体例としては、「鋳貨・紙幣・銀行券」が挙げられています。「鋳貨」とは、硬貨(補助貨幣)のことでしょうか。また、「紙幣」と「銀行券」は何が違うのでしょうか。
広辞苑では広義の貨幣に含まれていた「預金通貨」は、大辞林の定義では含まれるのか不明ですね。
ここまでのまとめ
まとめますと、現代の貨幣としては、現金紙幣、補助貨幣(硬貨)及び預金通貨が貨幣の候補として挙がりそうです。これらが上記の各辞典による定義において、貨幣の範囲に含まれるか否かを次の表にまとめました。含まれるものを○、含まれないものを✕、不明なものを?で示しています。
| 広辞苑 | 新明解国語辞典 | 大辞林 | |
|---|---|---|---|
| 現金紙幣 | ○ | ○ | ○ |
| 補助貨幣 | ○ | ○ | ○ |
| 預金通貨 | ○ | ✕ | ? |
以上のように、「貨幣」の定義は辞典によって微妙に異なります。日常的に「お金」と呼ばれている「現金紙幣」と「補助貨幣」が貨幣であるのはわかるとして、「預金通貨」の解釈が辞典によって異なります。
経済学の教科書による定義
主流派経済学による定義
現在の主流派とされる主流派(以下、「主流派経済学」)の教科書によれば、貨幣には3つの機能があるとされています。
- 「交換媒体」としての機能
- 「価値の貯蔵手段」としての機能
- 「計算単位」としての機能
これらの3つの機能は、広辞苑の定義と微妙に異なります。
広辞苑では、商品交換の媒介物(上記1の「交換媒体」に相当)を前提として、価値尺度(上記3の「計算単位」に相当)・流通手段・価値貯蔵手段(上記2の「価値の貯蔵手段」に相当)の3つの機能を持つとしています。「流通手段」については主流派では前提なんでしょうかね。
当記事で用いることにする「貨幣」の定義
当記事でも、一般に用いられている主流派経済学による貨幣の定義を基本的には用いたいと思います。
更に具体的な定義としては、現在の日本における貨幣は、日銀当座預金、現金紙幣(日本銀行券)、補助硬貨、預金通貨(銀行預金)を含むこととします。
日銀当座預金とは、日本銀行が、日本政府や取引のある民間銀行に対して受け入れる預金口座です。
上記の辞典等には「日銀当座預金」の明確な記載が見当たりません。しかし、貨幣の仕組みを理解するにはこれの理解が不可欠です。
まとめ
当記事では、「貨幣」の具体的な定義として当面は次の3種を用いたいと思います。
- 日銀当座預金
- 日本銀行券
- 硬貨(補助貨幣)
- 銀行預金
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