はじめに
「預金業務」、「貸出業務」及び「為替業務」は、銀行の3大業務と呼ばれています。それぞれについては中学校の社会科の授業等でも教わりましたし、ネットで検索すればこれらについて語っている人はいくらでもいます。
しかしながら、中学校で教わり、国民の大半が信じている銀行業務の通説は、実は誤りを含んでいるようです。当記事ではまず、この通説とその誤りについてまとめます。その後、銀行の3大業務について述べます。
銀行業務の通説
中3の公民の授業で教わったこと
私は中学3年生の公民の授業で、銀行の業務について教わりました。それは、銀行は次のようなプロセスで利益を得ているという内容でした。
- まず、銀行は私たちから銀行預金を受け入れ、資金を集めます(預金業務)。
- 次に、銀行は私たちから集めた資金を、金利を付けて企業に貸し出します(貸出業務)。
- 返済時に企業から銀行に支払われた金利が、私たちの銀行預金の利子や銀行の利益になります。
社会科の授業で教わった内容は、残念ながら殆ど忘れてしまってあまり覚えていないのですが、これは覚えています。そして、これが銀行業務についての通説であると思います。
残念なお知らせ
見出しの通り、ここで残念なお知らせがあります。2019年頃、現代貨幣理論(MMT)という経済理論が日本でも紹介されました。そのMMTが明らかにした事実によると、上記のような通説は誤りを含んでいるようです。というより、実態は全く異なるようです。
先に簡単に答えを言いますと、上記の1(預金業務)と2(貸出業務)の順番が逆となります。つまり、銀行は人々から資金を集める前に、企業に資金を貸し出すことができます。つまり、貸出が先です。
「お前は何を言ってるんだ?」とお叱りを受けるかも知れません。以下で少し詳しく説明しますので、もう少し我慢下さい。
貸出業務
上で「貸出が先」と言いましたので、貸出業務から説明しましょう。ここでもう一度言います。
銀行は人々から資金を集める前に、企業に資金を貸し出すことができます。
つまり、例えばA銀行は取引先のB社に融資する際に、仮に1,000万円しか資金がなくても1億円を融資することができます。何故、このようなことが可能なのでしょうか。
それは、A銀行はB社の預金残高を1億円だけ増やすからです。
「だから、どうやって残高を増やすのか訊いているのだ」とお叱りを受けそうです。
それは、A銀行はB社の預金通帳に「1億円」と書き込むだけなのです。これによって、B社には1億円の銀行預金という資産が発生すると同時に、1億円の借入金という負債が発生します。
これをA銀行側から見れば、A銀行には1億円の貸付金という資産が発生すると同時に、1億円の銀行預金という負債が発生します。
つまり、A銀行は1億円を調達することなく、無から1億円を生み出して貸し付けることができます。このように、無から生み出された貨幣は「万年筆マネー」とも呼ばれます。
銀行員が万年筆で書くだけで生み出せる貨幣であることがその由来なのでしょう。もちろん、今の時代は万年筆ではなく、コンピュータにキーボードを介して「1億円」と入力するのでしょう。
預金業務
上で「貸出が先」と言いましたので、預金はその次となります。
お気づきでしょうか
上の貸出業務の例で、A銀行がB社に1億円を貸し付けた結果、B社には1億円の預金という資産が発生しました。B社はこの1億円の預金を、様々な決済に用いることができます。
例えば、B社は、その従業員がA銀行に持っている預金口座に給料を振り込むことができます。また、B社は、この預金の1億円のうち例えば100万円を現金紙幣に換えることができます。
つまり、このときA銀行はB社の求めに応じ、B社の100万円分の預金を100万円分の現金紙幣に交換しなければなりません。これが、預金が銀行から見れば債務であることの理由です。
何も問題はないことについて
ここで仮に、B社が預金口座の1億円を全て引き出そうとしたらどうでしょう。
残念ながらA銀行には上記の仮定の通り1,000万円の資金しかありませんから、B社の求めに応じることはできません。A銀行は困ってしまいます。
でも、よく考えてみましょう。果たしてこのようなケースが起こり得るでしょうか。B社がわざわざ1万枚の1万円札(1億円)を用意しなければならない状況が起こり得るのでしょうか。
可能性はゼロでないかも知れませんが、現実には起こり得ないとみなして問題ないのではないでしょうか。ですので、A銀行はB社からの現金の引き出しに備え、1億円のうち所定の割合の現金紙幣だけを準備しておけば問題はないでしょう。
実際、金融機関にはこのような義務が「準備預金制度」という制度によって規定されています。具体的には、準備預金制度とは、対象となる金融機関に対して「受け入れている預金等の一定比率(準備率)以上の金額を日本銀行に預け入れること」を義務付ける制度です。詳細は「信用創造」で述べました。
通説では・・
ところで、上述した通説によると、「銀行は人々から預金を受け入れ、資金を集める」ということでした。ここで冷静に考えてみましょう。
私たちは、現金紙幣を手に入れ、それを銀行の自分名義の預金口座に預け入れに行くことってあるでしょうか。
私は、初めて自分の預金口座を開設した高校卒業の直後から社会人になった現在に至るまで、そのようなことをした記憶はありません。
もちろん、そのようなことをする人が全くいないわけではないでしょう。給料日に、給料袋に入れて渡された現金紙幣を銀行に持って行って、自分名義の預金口座に預け入れる人もいるでしょう。30年以上前ならそういう人たちの方がむしろ多かったかも知れませんが・・。
上記の通説が正しいとすると、銀行はそんな珍しい人たちから資金を集めて企業に貸し出しているということになるのではないでしょうか。
更に冷静に考えてみましょう
上の例の珍しい人の給料袋に入っている現金は、どこから出てきたのでしょうか。多分、その人の会社の給料日の前に、経理の人が会社名義の預金口座から引き出してきたはずです。
それでは、その会社名義の預金口座の残高は、どのように発生したのでしょうか。その会社の取引先のお客さんが、そのお客さんの取引先の銀行の、そのお客さん名義の預金口座から振り込んだのかも知れません。
それでは、そのお客さん名義の預金口座の残高は、どのように発生したのでしょうか。・・これ以上続けても答えは出そうにありません。
そろそろ答えを出しましょう
結局、現金紙幣は銀行の預金口座から引き出さなければ私たち一般人の目の前には現れません。その預金口座の残高は、誰かが銀行から借り入れなければ(つまり、銀行が貸し出さなければ)発生しません。
ですので、どうしても「貸出が先」です。貸し出しがなければ何も始まりません。
補足
上で、「A銀行はB社からの現金の引き出しに備え、1億円のうち所定の割合の現金紙幣だけを準備しておけば問題はないでしょう」と述べました。更に、「現金紙幣は銀行の預金口座から引き出さなければ私たち一般人の目の前には現れません」とも述べました。
それなら、「A銀行はB社から引き出しに備えるための現金紙幣をどうやって調達するのか」とご指摘を受けそうです。
これについての詳細は他の記事で述べたいと思いますが、A銀行は、日本銀行に開設された日銀当座預金から引き出すことによって、現金紙幣を調達します。
為替業務
為替業務とは、貨幣の受け渡しを現金ではなく、銀行間の資金移動等によって行う業務です。
例えば、遠方の会社との決済を行う場合に、現金紙幣を遠方の会社まで持ち運ぶ必要がないのはとても便利です。また、多額の決済を行う場合に、多額の現金紙幣を厳重に持ち運ぶ必要がないのはとても便利です。
為替業務の具体例として、私の家賃の支払いを挙げたいと思います。
私は家賃の管理会社Eに対し、毎月の家賃100,000円の債務を負っています。私の家賃の支払いは、私のR銀行の預金口座から毎月自動的に引き落とされ、管理会社EのS銀行の預金口座に振り込まれることによって行われています。
まず、給料日に私のM銀行の預金口座にX万円が振り込まれ、そこから家賃分の100,000円をR銀行に移した後から考えましょう。月に1度、以下のような決済が行われています。
- 月の所定の日になると、R銀行はキーボードをたたいて私名義の預金口座の残高を100,000円だけ減らします。
- 1と同時に、S銀行はR銀行からの依頼に応じて、キーボードをたたいて管理会社E名義の預金口座の残高を100,000円だけ増やします。
- 最後に、日本銀行はR銀行からの依頼に応じて、キーボードをたたいてR銀行名義の当座預金の残高を100,000円だけ減らし、S銀行名義の当座預金の残高を100,000円だけ増やします。
これで、すべての決済が完了です。
3で示したように、銀行間の決済は、銀行が日本銀行に預け入れている当座預金(日銀当座預金)を介して行われます。
日銀当座預金については、日本銀行の業務についての記事で述べたいと思います。
まとめ
私は銀行員ではありません。銀行員でもないのに、銀行業務について偉そうに語りました。
実は、私がよく行くバーの常連さんで銀行員の知人がいます。しかも、その方は再来年あたりに定年退職を迎えるそうですからベテラン銀行員です。
昨年(2022年)のある日の晩、バーでその方に遭遇したので訊いてみました。「銀行業務についての通説は実は誤りではないのですか?」、「実際は・・・(上記)なのではないのですか?」、といった質問をしてみました。
すると、その方からは、
「え?人から集めた金を会社に貸し出してるんだよ」
という答えが返ってきました。
「え!?それってMMTによれば誤りとされている通説じゃん・・」と、口には出さずに耳を疑いました。でも、MMTによると云々・・と再度質問をすると、
「MMTって何?」
という答えが返ってきました。銀行員でもない私は、これ以上は食い下がれませんでした。
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