はじめに
貨幣の起源は、「物々交換」であったという「主流派」とされる経済学(以下、「主流派経済学」)による説明が今のところの通説になっています。
これに対し、「現代貨幣理論」(MMT)によれば、貨幣の起源は物々交換ではなく「債務証書」であったと説明されます。
ただ、私としては、貨幣の起源は文明や国家によって様々なケースがあり得るのではないかと思います。
この記事では、それぞれについてまとめ、最後に日本の貨幣の起源について考えます。
物々交換説
前述のように、貨幣の起源は「物々交換」であるというのが今のところの通説になっているようです。
しかしながら、物々交換はちょっと不便です。
魚を手に入れたい場合
例えば、私が肉を手放して魚を手に入れたい場合、魚を手放して肉を手に入れたい誰かを探し出さなければなりません。
しかも、今すぐにという条件付きです。
私が何らかの理由で肉を所有しているとして、今日の夕飯は焼魚にしたいと思い立ち、漁港まで行って肉が欲しい人を探し出さなければなりません。
しかしながら、そんなことをしているうちに日が暮れてしまいます。持参した肉もどんどん傷んでいってしまいます。
つまり、物々交換の場合、取引が成立する条件として、自分と相手がお互いに交換したい商品やサービスが同時に一致する「欲望の二重の一致」が必要になります。
確かに、これでは不便過ぎます。
商品の交換媒体の登場
そこで、商品の交換媒体として、商品と同等の価値を持つ分量の貴金属、米、塩等が用いられるようになりました。
これによって、貨幣の機能のうち「交換媒体」に加え、「価値の貯蔵手段」が実現します。
上述の例では、何らかの理由で肉を入手してから所有している間に、肉はどんどん傷んでいきます。
つまり、肉の価値は時間の経過に伴ってどんどん下がっていきます。
それほど遠くないうちに、物々交換の取引に応じてくれる人はいなくなってしまいます。
紙幣の登場
商品の交換媒体として登場した貴金属、米、塩等は、持ち運び等の取扱いに不便です。
そこで、商品やサービスの交換媒体として紙幣が用いられるようになり、額面だけの価値を持つ分量の貴金属といつでも交換することを約束することとしました。
しかし、いつの間にか貴金属との交換が約束されなくなってしまいましたが、それでも問題なさそうなのでそのまま現代の貨幣に発展しましたとさ。
というのが主流派経済学の説明だそうです。
MMTからの反論
なお、今のところ「物々交換から貨幣が生まれた」という歴史的事実の存在は証明されていないそうです。
MMTは、これを理由の一つとして物々交換説を否定しています。
しかし、存在しないものを存在しないと証明することは原理的に不可能です。
なので、私はMMTのこの主張は少々説得力を欠くのではないかと思っています。
債務証書説
MMTは、主流派経済学による物々交換説を否定しています。
前述のように、MMTは、貨幣の起源は「債務証書」であると説いています。
歴史的には、粘土板で作られた「割り符」と呼ばれる形態の債務証書が古代メソポタミアで流通していたことが確認されているそうです。
前述の肉と魚の例を用いて説明します。
魚を手に入れたい場合
今度は肉を所有していない私が、今日の夕飯は焼魚にしたいと思い立ち、漁港に行きます。
そこで私は漁師さんに、漁師さんが捕った魚と、私が予め用意しておいた「紙切れ」との交換を交渉します。
その紙切れには、
私(名月谷)は、〇年〇月〇日に、貴方に肉をお渡しします。
といった一文と私の住所が書かれ、私の判子が押してあります。
もし、漁師さんが〇年〇月〇日の夕飯を焼肉にしてもよいと考えれば、交換に応じてくれるかも知れません。
ここで、漁師さんが仮に交換に応じてくれれば、私は魚を手に入れてその日の夕飯は焼魚にありつけます。
魚を手に入れた後
ところでその後、交換に応じてくれた漁師さんが、〇年〇月〇日の夕飯を焼肉でなくて「焼鳥」に変更したいと考えたらどうでしょうか。
漁師さんは私が差し出した紙切れを持って例えば名古屋へ行くかも知れません。
そして養鶏場で名古屋コーチンと例の紙切れとの交換を交渉します。
以下同様にして、私が差し出した紙切れが他人から他人の手に渡っていきます。
決済
そして〇年〇月〇日になると、この時点の紙切れの持ち主が私の家の玄関に現れます。
私はその人が誰だか知りませんが、紙切れを回収し、この日のために用意しておいた新鮮な肉を渡してめでたしめでたしとなります。
この紙切れこそ、貨幣の起源である債務証書というわけですね。
ただし、この紙切れは私にとっての債務証書であって、持ち主にとっては債権証書です。
日本の貨幣の起源
貨幣の起源として物々交換説と債務証書説が対立していますが、日本の場合はどうだったのでしょうか。
日本の最古の貨幣は、「和同開珎」であると学校で習った記憶があります。
しかし、それよりも古いと思われる「無文銀銭」や「富本銭」といった貴金属貨幣が近年出土しています。
貴金属貨幣については後ほど考察するとしまして、それらが用いられる前は、米、布、塩等が商品の交換媒体(貨幣)として用いられていたそうです。
これはおそらく否定できない歴史的事実なのではないでしょうか。
更に、古代の日本で債務証書が流通していたという証拠を私は目にしたことがありません。
日本の場合、どちらかと言えば「債務証書説」よりも「物々交換説」に近いのではないでしょうか。
私見ですが、貨幣の起源とは、一つに限定されるとは考えにくいと思っています。
文明や国家によって様々なケースがあり得るのではないでしょうか。



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